小坪井林用軌道~房総の山奥に遺された鉄路~

これまで、千葉県に森林鉄道は存在しないと言われてきた。だが、そのないはずの林鉄の痕跡が誰も知らないような山奥の谷に眠っている。しかもそれは今までの森林鉄道の常識を覆すようなシロモノだった。

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第四次探索: 0 / 1 / 2 / 3 / 4 / 5 おまけ / 番外編 / 補足
第五次探索: 0 / 1 / 2 / 3 番外編
第六次探索: 0 / 1 / 2 番外編


 日本全国に1100以上存在した森林鉄道。それまで川流しに頼っていた材木の運搬作業を鉄道に担わせようとしたものです(川流しで対応できるところは伐りきってしまったという側面もあります)。多くは急峻な谷に対応するため軌間762ミリで敷設され、日本の林業の発展に大きく貢献してきました。

 房総の山奥でもそれは同じで、千葉営林署の笹事業区では、従来交通が不便であった小坪井国有林の開発を行うため、県道を延伸する形で1600mの車道と7200mの軌道を敷設しました(のち11.5キロに延伸)。
 それが、今回探索した小坪井林用軌道です。地元では「真崎」と呼ばれる舌状地を起点とし、小坪井沢を遡上。さらには隧道を穿って本坪井沢や田代川沿いにまで足を伸ばしていました。これにより、各谷の上流部に存在する国有林だけでなく、下流の民有林でも林業が盛んになったようです。
 しかし、昭和30年代に起こったエネルギー革命により木炭需要は大幅に減り、林業は一転して衰退へと向かいました。ここ小坪井でもそれは同じで、11.5キロにも及んだ路線網は1956年までに全撤去されています。

ちなみに…
 実は、ごく最近まで“千葉県に森林鉄道はなかった”というのが林鉄界の常識でした。全国の国有林森林鉄道を網羅する「国有林森林鉄道路線データ」というものに千葉県の路線が掲載されていなかった(※2018/08/30修正にて「小坪林道」の名で掲載されました)上に、房総の山は低く古来より人の出入りが多く、さらには房総の谷は固い岩盤で出来ているために路盤を敷く場所がないという地形的条件があったからです。
 しかし、小坪井林用軌道では、谷底に橋脚孔を掘り、桟橋の上に軌道を通すという前代未聞の方法で鉄路を敷設しました。これは、房総の谷が通常は極めて水量が少ないため、無理をして斜面を切り崩して平場を設けるより谷底に軌道を敷設してしまった方が早い、ということが原因と思われます。
 また、長大隧道を掘って隣の谷へ隣の谷へと渡り歩くのもこの軌道の特徴と言えます。これは、国有林が各谷の上流部に点在していたこと、房総の山々の地質が隧道を掘るのに適していることが原因でしょう。
 ただし、このように特異な軌道のため、遺構の発見は難しく、しっかりした痕跡は何ヶ所かの隧道と点在する橋脚孔のみです。しかも、谷底の孔の中には堰を支えるためのものや、人のみが通る桟橋の橋脚孔も混ざっていると言われており、全貌の把握は極めて困難です。

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