今に残る急行列車

盛岡〜花巻〜釜石を結ぶ快速はまゆりは、ローカルな快速には珍しく3両編成で、しかも指定席車を連結しています。使用される車両が以前、急行陸中に使われていたことを考えても、快速はまゆりは急行列車の亡霊と言えるのではないでしょうか。急行はまなすが廃止されたいま、急行列車の面影を感じられるのはここだけと思い、今回乗車してきました。

三陸旅行最終日。3日間の中で最も行程に余裕があったので、釜石の街をぶらついてから行こうと思ったものの、時期が時期だけに観光施設はことごとく閉鎖。諦めて10:11発のはまゆり4号で遠野に向かうことにします。閑散期で指定料金が320円なのでいっそのこと、と指定券を購入。ホームに上がって指定席車の3号車に乗り込みます。

改札にいちばん近いところが指定席車なのは課金組の特権…?

固定電話の着信音のような音が流れてドアが閉まり、列車は定刻に発車しました。釜石はあまり土地がなく谷筋に沿って街並みが続いているので、駅を出てもなかなか田園風景に出会えません。それを証拠に、釜石のお隣小佐野でも釜石と同数の3人乗車しました。小佐野での乗車が多いことはやはり車掌も心得ているようで、各駅への到着時刻などをまとめた詳細放送は小佐野発車後に行われました。
放送が終わると検札が開始。さすがにこんなローカルな列車では検札レスなどしないようです。

高速道路ですかね?立派な施設で羨ましい限りです。

検札が終わったところで、釜石地区からの乗車人数を確認するために車内を一巡してみます。

1号車は普通列車に使われるようなセミクロス車で、もしこの列車が急行なら間違いなく遜色の烙印を押されてしまう車両です。座席が良くないせいか、わずか4人しか乗車していませんでした。

2号車は急行の自由席にふさわしい簡易リクライニング。指定席との差は座席の色くらいに思えます。追加料金なしならこちらの方がいいということなのか15人乗車していました

3号車は全体写真を撮り忘れたので隣の座席を…。指定席料金たったの320円とはいえほぼ同じ設備の自由席に客が流れているようで、乗車しているのは6人だけです

そんなことをしていると列車は仙人峠に差し掛かります。 仙人峠は釜石線随一の難所で、887mの峠を越えるために釜石線は北に4キロ近く迂回をしています。しかも、当初案ではループ線とスイッチバックを組み合わせた最急勾配40‰の路線になるようでしたから本当にこの峠は侮れません。

このあと左上の赤い鉄橋を渡るんですよ…?信じられますか…?

これから走る線路を見上げつつ進んでいくと、谷のどん詰まりにある陸中大橋にやって来ます。ここには釜石の鉱山事務所があり、願わくば訪れたかったのですが冬はお休みとのこと。しかも、残念なことに快速はまゆりは全列車停車しません。橋野高炉跡が世界遺産に登録されたことですし、観光利用を見込んで停車させてもいいと思うのですが…。

と、願いが通じたのか列車は速度を落とし、陸中大橋に停車!

もちろん、これは普通の停車ではありません。単線区間で対向列車を待つ運転停車というものです。少しして釜石行きの快速はまゆりがやってきましたが、どうせここで運転停車するなら客扱いもすればいいのに、と思ってしまいました。まあ、たぶん快速はまゆりは地元利用主体で、観光客はSL銀河に乗るのでしょうけど…。

陸中大橋を出るとトンネルに入り、180度カーブします。そのままグングン高度を上げた列車は、先ほどの赤い鉄橋を通過。左手はるか下には陸中大橋の駅が見え、どれほど上がってきたことかと感心しました。
上有住くらいで峠を登りきって、なだらかな盆地をひた走るようになります。峠近くでは時速55キロだったのが、青笹駅の辺りでは80キロ近くになっています。これくらいがなんとか高速バスに対抗できるスピードでしょうか。もっとも、マイカーならば多少のスピード違反をして飛ばすことが多いので、時速100キロを比較的安定して出せないと真の意味でクルマに対抗できるとは言えないのですけれど…。

民話の町として知られる遠野は自由席のほうで下車が1人,乗車が3人もいました。時間的にも身なり的にも観光客には見えなかったので地元客なのでしょう。さすがは一時期県庁も置かれた都市だな、と思います。せっかくなので私もここで下車し、町をぶらついてみることにしました(ただ博物館に行っただけなので省略します)。

遠野の町を存分に楽しみ、駅に戻ってきました。乗車するのは15:09発の快速はまゆり6号。こちらは観光客も多そうな時間帯で、実際に待合室にはおばあちゃま(おじいちゃま)のグループが世間話に花を咲かせていました。
改札が始まると、さきほどのおばあちゃまグループだけでなく、サラリーマンや若い夫婦などとにかくわんさかホームに出て行きます。ざっと30人弱いたのではないでしょうか
列車が到着すると自由席から3人だけ下車してきて一気に乗車が始まります。観光客が多くてもやはり追加料金なしの自由席のほうが人気のようで、自由席には25人近く乗車したのに対し、指定席には3人しか乗車しませんでした。たった320円なのに…と思いつつ、ガラガラの指定席に乗車します。
遠野より前からの乗車は10人で、やはり利用者が多いことが窺えます。

はまゆり6号は他の列車に比べて停車駅が多いことも特徴的で、遠野の次の鱒沢もそうです。もっとも、ここでは1人乗車したのみで、対向列車とのすれ違いがメインな気がします(このため同駅で4分も停車しました)。それならなおさら陸中大橋に停めてほしいのですが…。
宮守で1人乗車土沢で自由席に1名ずつ乗降があったのち、列車は新花巻に到着します。15分ほどではやぶさが接続するダイヤだったことから、8人ほど下車していきました。私もここで降りてもいいのですが、釜石線を完乗するためそのまま乗車します。
似内(にたない)という難読駅名を過ぎて花巻に到着。車内アナウンスで、北上行きの電車が接続しているとの放送があり、北上から新幹線に乗るという手もあったな…と少し後悔しました。ダイヤの都合上、北上へ向かっても東京到着は8分しか早くなりませんが、乗車券・特急券ともにいくぶん安くなったはずです。

規格の良さなのか、東北本線に入ったはまゆりはさらにスピードを上げます。この先、終点の盛岡までに矢幅という駅に停まるのですが、近距離利用がどれほどあるのか気になるところです。
そして当の矢幅に到着。流石に指定席への乗車はありませんでしたが、自由席に20人ほど乗ったように見えました。盛岡まであとわずかですが、ここでもう一度車内を一巡してみます。
自由席は高校生が多いように見え1号車36人,2号車33人の活況ぶりだった一方、指定席の3号車は4人のみ。指定席利用がもっと増えてくれたら…。

全体として着実に利用されていると感じましたが、やはり指定席の利用の少なさが目立ちます。名鉄のように指定席と自由席で設備に大きな差がない限り、これはどうしようもないのでしょうね…。急行の面影が残る数少ない列車として、指定席の連結をしたまま末永く存続してほしいところです。

コメント

  1. 空想委員 より:

    「はまゆり」の他、急行の雰囲気が味わえる快速はあるかなと、いろいろ考えてみましたが、「みえ」(名古屋~四日市はかつての急行「かすが」と車両・停車駅とも同一)も「ことぶき」(「つやま」とほとんど同じ)も微妙ですからね……。「なよろ」に急行仕様キハ54が入ったときに「礼文」を偲ぶ、くらいですかね。北海道だと「きたみ」「ノサップ」あたりも雰囲気は味わえるかな(実際私が「ノサップ」に乗ったときは急行を思いながら乗りました)。あと「おはよう信越」は……と一瞬思いましたがE653に置き換えられてましたね。「あがの」も「べにばな」も急行時代からは大きく変わっていますし、やっぱり一番急行を味わえそうな快速は「はまゆり」ですね。

  2. 空想委員 より:

    連投になってしまい申し訳ないのですが、写真の高架橋について。
    それは国道289号「仙人峠道路」です。一般道ですが、ご推察の通り高速道路ネットワークの一部を構成する路線で、国土開発幹線自動車道整備法に基づく予定路線の一つ「東北横断自動車道釜石秋田線」の一部となる自動車専用道路であり、現在東日本大震災からの復興事業の一環として現在前後の区間が事業中で、やがては釜石自動車道・三陸自動車道と直結することになる路線です。
    三陸国道事務所釜石維持出張所のサイトに仙人峠の道路の歴史についての記事があります。なかなか面白いので、もしよろしければ。

    • ばか者 より:

      コメントありがとうございます。

      あの高架橋は仙人峠道路でしたか…。
      姿を見たのが小佐野駅を発車してすぐだったと勘違いしていたのでもっと長大な高速道路の類だと思ったのですが、洞泉駅付近まで延びていたんですね…。

      仙人峠といえば、東西から延びてきた鉄道が峠を越えられず荷物は索道で、人々は登山道で移動した、という話や、国鉄がこの峠を越えるために、当初スイッチバックやループ線などを多用した路線を構想していた話を真っ先に思い出します。
      最近廃線探索にハマっているのでもしかしたらそのうち探索に行くかもしれません。

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